一言でいうと…
✔ 新型コロナの肺炎が急速に悪化する理由は、ウイルスを攻撃するインターロイキン6が、自分自身の肺の細胞も攻撃してしまうためだ。
✔ ウイルスなどを排除するための免疫力が、自分自身の細胞を攻撃するために発症する病気を「自己免疫病」といい、コロナ肺炎は自己免疫病としての側面があるため、急速に悪化する。
✔ 自己免疫病の代表が関節リウマチで、「アクテムラ」という関節リウマチの治療薬は、インターロイキン6をブロックするため、新型コロナの治療薬としても期待されている。
✔ ドマラリア治療薬のヒドロキシクロロキンという薬も、実は自己免疫病の治療薬としても使われており、研究者はこの点に着目して新型コロナにも使えるのではないかと研究している。
毎週、水曜日の文化放送「SAKIDORI」と、木曜日のFM「ハッピーモーニング」で健康解説をしています。
2020年5月6日と7日にお話した内容から、前半部分を抜粋して、ご紹介しています。
新型コロナに感染した人の中で、軽い風邪かなといった程度だったのに、
ある瞬間に一気に悪化して、そのまま死亡する方も続出していますよね。
新型コロナの肺炎は、どうして急激に悪化するのか、その仕組みがわかってきたんです。
それで、重症化していないか、自分でチェックするポイントも明らかになってきたので、
ご紹介したいんですね。
普通の肺炎は、病原菌が肺の細胞に感染して、呼吸の働きができなくなるわけです。
でも、肺のすべての細胞に一気に感染するということはなくて、徐々に広がっていきます。
だから、通常は、悪化に時間がかかり、ジワジワっと進行していくものです。
ところが、新型コロナの場合は、ほかにも大きな要因があることがわかってきました。
感染すると、人体の免疫システムは、ウイルスをやっつけるために、
インターロイキン6という物質を作ります。
これによって病気が治るわけだから、この事自体はいいことなんです。
でも、人によっては、インターロイキン6が、ものすごくたくさん作られてしまう。
それで、感染した細胞を攻撃してくれるのはいいんですが、
感染していない肺の細胞も攻撃を受けてしまう。
この場合は、すべての肺の細胞が一斉にダメージを受けるんですね。
だから、肺炎が一気に悪化してしまう。
このように、自分を守るための免疫力が、自分自身の細胞を攻撃して病気になるのを、
医学では「自己免疫病」といいます。
新型コロナは、病気の分類としては、もちろん感染症なんです。
でも、自己免疫病としての側面もあって、これが、肺炎が一気に悪化する大きな要因なんですね。
自己免疫病で、最も患者数が多いのが、関節リウマチです。
これは、免疫力が自分自身の関節を攻撃するために、関節が変形し、激しい痛みが出る病気なんですね。
実は、新型コロナの薬の開発にも、自己免疫病の治療法が応用されているんです。
今、レムデシビルとアビガンという薬が注目されていますね。
それぞれ、エボラウイルスとインフルエンザウイルスの増殖を防ぐ薬です。
ですから、普通に考えて、新型コロナウイルスの増殖を防いでも、まあ、おかしくないですよね。
これは、みなさん、理解しやすいと思うんです。
一方、アクテムラという関節リウマチの薬も、新型コロナの治療にかなり有力だとして、
臨床研究が行われています。
ウイルスの病気と関節リウマチと、一見、関係なさそうで、不思議だな…って思った人は、いませんか?
実は、アクテムラの効果は、インターロイキン6の作用をブロックして自己免疫病を治すことです。
この部分は、新型コロナの肺炎と共通しているんですね。
実際、感染を抑えるのではなく、肺炎の悪化が抑えられたというデータが出ています。
それから、ヒドロキシクロロキンというマラリアの薬も有力視されているんですが、
マラリアって、マラリア原虫という小さな虫のような生物が原因です。
ウイルスとは、何の関係もないんですね。
でも、この薬って、まったく違う効能で、自己免疫病の治療薬としても使われているんです。
研究者は、この部分に着目して、新型肺炎にも効果があるかもしれないと考えて、
実験をしたら、効果がありそうだというデータが出たんですね。
クロロキンって、昔からマラリアの治療に使われていて、正直、レトロっぽいイメージの薬なんですね。
長い年月、大勢の人に投与されているので、たまたま、マラリア患者の中に、自己免疫病の人もいて、
こちらも治ったため、調べたら新たな効果が見つかったんです。
ある病気の薬が、思いもしなかった別の病気にも効くというのは、医学ではよくあることです。
でも、同時に、思いもしなかった意外な副作用が、後から見つかるというのも、よくあることです。
そういう点では、新型コロナの治療薬の開発も、大いに期待ができるし、同時に慎重に副作用を見極めることも大事ですね。