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はじめに 宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議

 

医学博士 吉田たかよし

 

宇宙生物学とは、地球に限定せず、宇宙全体の広い視野で生命の成り立ちや起源を解明する学問で、アストロバイオロジーとも呼ばれています。 

本書は、この宇宙生物学を医学に結びつけることによって、生命の本質をわかりやすく興味深く解き明かしていくものです。

 

医者をやっていると、人体について数々の不思議な現象に出会います。

実は、そのうちのかなりが、医学とは畑違いの宇宙生物学で、スッキリと説明できるのです。

 

 

たとえば、多くの方が貧血に悩まされていますが、その最大の原因は鉄分の不足です。

どうして人体には、こんなに容易に鉄分が足りなくなるという欠陥が生じてしまったのか、以前から謎だとされていました。

 

この疑問も、宇宙生物学によって謎が解けました。

地球は鉄の塊だといってもいいくらい、鉄分が豊富な惑星として誕生しました。

だから病原菌も鉄分を利用して生きるようになったため、これを兵糧攻めにしようと、人体はわざと鉄分が吸収されにくいように腸を発達させたのです。

 

 

多くの方が癌で死亡する理由も、宇宙生物学によって説明がつきます。

火星や金星とともに岩石型惑星として誕生した地球の大気には、もともと酸素は含まれておらず、私たちの祖先は酸素がないことを前提に誕生しました。

そのため、私たちの細胞は酸素の毒性に脆弱で、これが発癌に深く関わっているということがわかってきたのです。

 

 

このように従来の医学だけでは説明がつかなかった様々な人体の不思議が、宇宙生物学によって解き明かせるのです。

しかも、納得させられた瞬間、まるで目から鱗が落ちるように人体の見方が変わります。

 

私が宇宙生物学と医学を結びつけて考えるようになったキッカケは、自らの経歴にありました。

私自身は宇宙生物学の研究に携わった後、一念発起して医学部に再入学し医師になりました。

だから、自然の成り行きとして、宇宙生物学の知識を基盤に医学を学ぶこととなったのです。

これが、結果として生命の理解にとても役立ちました。

 

 

宇宙生物学と医学は、ともに生命を扱うという点では共通していますが、その方向性はまるで対照的です。

 

医学は人間の命を救うための学問であり、徹底した実学です。

ただし、実用性を重視するあまり、人体の機能について体系だった把握が後回しにされる傾向があります。

 

一方、その対極にあるのが宇宙生物学です。

私は、おうし座暗黒星雲の中に生命の元になるアミノ酸を探す研究プロジェクトに参加していましたが、宇宙の視野で生命と向き合うことは、ロマンに満ち溢れたものでした。

宇宙生物学は、何かの役に立てるということを第一に考える学問ではないからこそ、純粋に生命の本質に迫ることができました。

 

このように対局にあるからこそ、宇宙生物学と医学を結びつけると、それぞれの欠点を補いあい、生命の理解が格段に深まるわけです。

そうした発想のもとに、私は、宇宙生物学と医学を結びつけるシナジー効果が最も高いと考えられる7つのテーマを以下のように厳選しました。

 

 

第1章は、高血圧の原因にもなっているため医学にとっても重要なナトリウムが、人体でどのような役割を果たしているのか、地球を回る月との関係から迫っています。

45億年前に月が誕生したことと、人体がナトリウムを使って筋肉や神経を機能させていることには、切っても切れない深い関係があることがわかってきたのです。

月と地球の間に生じたダイナミックな変遷を通して、生命がナトリウムをどのように利用してきたのか見ていきます。

 

 

第2章は、広い宇宙ではケイ素を中心にした岩石型の生命がありうるのかどうかを考えながら、どうして地球では炭素を中心とした有機化合物で生命が作られたのかに迫っていきます。

尿が黄色い理由も、コレステロールやアルツハイマー病についての最新医学も、これによって理解が深まります。

 

 

第3章は、南米チリのアルマ望遠鏡で探索が進んでいる太陽系外のアミノ酸と生命との関係を通して、細胞の機能の根幹に挑みます。

さらに、こうした視点から、今はやりの炭水化物抜きダイエットの是非にも、切り込んでいきます。

 

 

第4章は、世界に衝撃を与えたNASAの研究発表を通して、なぜ、DNAの分子にリンが不可欠なのか、宇宙生物学の視点で生命の仕組みを考えます。

さらにリンを取り過ぎると骨粗しょう症になるなど、人体の不思議にも迫ります。

 

第5章は、38億年に及ぶ酸素と生命との関わりを考えます。

さらにこれを踏まえ、第6章では、なぜ人間だけが高頻度で癌になってしまうのか、酸素との関係から解き明かしていきます。

 

 

最後に第7章では、鉄と病気との関係を宇宙生物学の視点で探ります。

 

 

このように本書では、私たちにとって身近な人体の不思議に対して、壮大な宇宙生物学の研究成果から迫っていきます。

これにより、従来の医学や生物学の勉強では見えてこなかった生命の新たな一面が、はっきりと浮き彫りになってくるはずです。

 

宇宙生物学や医学の醍醐味がお伝えできるよう、一行一行、心を込めて丁寧に執筆しました。

どうぞ最後までお読みください。