第23回:キム・ヨナ選手!燃え尽き症候群を乗り越えられるか?(7月5日オンエアー)

フィギュアスケートのキム・ヨナ選手が、ソチオリンピックまでは現役を続行することを表明。
キム・ヨナが出場しなければ、浅田真央が金メダルをとっても、感動は半減。
再来年のソチオリンピックが待ち遠しい。

私が注目したのは、会見で、キム・ヨナが、バンクーバーオリンピックで金をとった後の心の苦悩を率直に語ってくれたこと。
より大きな目標を見出せない。国民の期待が大きなプレッシャーとなる。
そこから逃れたいと思いながら悩んだという。
これは、スポーツ選手に限らず、とことんまで努力して大きな結果を出した人に、よく見られる。
「燃え尽き症候群」と呼ばれることもある。


実は多くの受験生が、「燃え尽き症候群」に蝕まれている。
私のクリニックでは、受験生の脳機能や心の病気を扱っているが、せっかく志望校に合格できたのに、自宅に引きこもって大学を退学してしまう場合もある。
一流大学に合格した学生が、オウム真理教にのめり込むということもあったが、これも「燃え尽き症候群」がかかわっているといわれている。


現在では、こうした症状がどのようにして生じるのか、そのプロセスも少しずつわかってきた。
金メダルを取る、志望校に合格するといった大きな目標を達成するため、体内ではストレスホルモンが増加する。
これによって脳は機能を高めてくれるので、演技が上達したり、勉強がはかどったりする。
ただし、スーパーマンになるわけではなく、一時的に無理をして脳機能を高めているだけ。
オリンピックや受験が終われば、そのしわ寄せが一気に出てくる。


本人は目標が見つからないからヤル気が出ないと感じるが、本当はそれだけではない。
疲れ果てた心身を休ませるため、脳はわざとヤル気を低下させる。
つまり、「燃え尽き症候群」は、脳や体を守る人体の知恵。
大切なのは、回復するまで休むこと。


もう一つ、重要なのは、「燃え尽き症候群」の真っ最中に人生の決断をしないこと。
脳は心身を休ませるために、自分自身をだます。
毎年、せっかく合格した東大を退学していく学生がいる。
本人は、「こんな大学、俺は嫌いだ」などと感じているから、退学を決断する。
でも、東大は嫌いだというのは、実は本心ではなく、脳が心身を休ませるためにだましている。
それが証拠に、退学して休養をとると、多くの人が「退学しなければよかった」と後悔する。


キムヨナ選手は、結果として休養がとれたことは良かった。
金メダルをとった後の苦悩を率直に語ったときの吹っ切れた表情から、「燃え尽き症候群」は乗り越えたように私は感じる。
ソチオリンピックがますます楽しみになってきた。