カリウムが血圧を下げてくれる理由!
食塩を取りすぎても、水分をたくさんとって、おしっこを大量にすれば、ナトリウムは捨てられると思っている人が多いようですが、これは間違いです。
1日に尿と一緒に捨てられるナトリウムの量は決まっているのです。
それを越えてとってしまったナトリウムは、体内に蓄積して高血圧を引き起こしてしまいます。
ただし、1つだけ、1日に捨てられるナトリウムの量を増やす方法があります。
それはカリウムを豊富にとることです。
腎臓は血液をこしとって、いったん尿の元になる原尿をつくります。
さらにこの中からナトリウムやカリウム、それに糖分など人体に必要な成分を再吸収して血液に戻し、残ったものを尿として捨てています。
この仕組はとても複雑なのですが、その中に、ナトリウムとカリウムがペアで移動する仕組みがあるのです。
このため、カリウムを豊富にとっているときは、カリウムと連動してナトリウムの再吸収が抑制され、結果として尿と一緒に捨てられるナトリウムの量が多くなるのです。
腎臓にこうした仕組みが組み込まれているのは、人体が周期表の中で上下に隣接したナトリウムとカリウムをセットにして管理してきた歴史の名残だと考えられます。
こうした人体の仕組みを反映して、2005年にカリウムの一日あたりの摂取目標が変わりました。
それまでは、1日あたり2000ミリグラムのカリウムを取るように推奨されていたのですが、それが一気に3500ミリグラムまで引き上げられたのです。
といっても、それまで基準が間違っていたわけではありません。
純粋にカリウムのことだけを考えれば、1日に2000ミリグラムを取れば十分です。
現実には、日本人は平均して2400ミリグラムまでのカリウムをとっています。
だから、従来の基準を当てはめれば、カリウムは不足していないので、無理して多く取る必要はないということになります。
医者も栄養士も、基本的にはこの基準に沿って指導することになっているのですが、残念ながら、これは現実にそぐわない結論だったのです。
その原因はナトリウムにあります。
ナトリウムの一日あたりの摂取量は、男性で3500ミリグラムが上限だと推奨されていますが、現実に平均して4600ミリグラムが摂取されています。
一方、女性の場合は、推奨されている上限が3000ミリグラムなのに対し現実には3900ミリグラムが摂取されています。
男女とも大幅にナトリウムの摂取量がオーバーしています。これが、高血圧が国民に蔓延している原因になっているわけです。
まずやるべきことは、ナトリウムの摂取量を減らす努力をすることですが、厚生労働省が呼びかけてもそう簡単には減ってくれません。
そこで、仕方なく、ナトリウムの取り過ぎを前提に、カリウムの力も借りて体内のナトリウムを捨てようということになり、推奨するカリウムの摂取量を3500ミリグラムまで一気に増やしたのです。
カリウムの平均摂取量は2400ミリグラムなので、新しい基準に照らせば、もっとカリウムを取るべきだということになります。
これによって、医者も栄養士も、現実に即した指導ができるようになったわけです。
ただし、ひとつだけ注意点があります。
実は、カリウムは取り過ぎると命を落とすこともあるのです。
たとえば、東海大学病院で起きた安楽死事件は、カリウムが用いられました。・・・・・・
「元素周期表で世界はすべて読み解ける」(光文社新書)第4章より
元素周期表で世界はすべて読み解ける
宇宙、地球、人体の成り立ち
吉田たかよし著
2012年10月17日発売
光文社新書/定価777円
【目次】
第1章 周期表には何が書かれているか?
第2章 周期表から宇宙を読み解く
第3章 化学反応を繰り返す人体
第4章 私たちはなぜ、動くことができるのか
第5章 レアアアースははみ出し組ではない!
第6章 美しき気ガスと気体の世界
第7章 周期表からリスクと健康を見きわめる
元素周期表で学ぼう!楽しもう!