水銀・カドミウム vs 亜鉛、毒と薬は似たもの同士!
水銀とカドミウムは、亜鉛と間違って人体に取り込まれる!
「周期表で人体がよく使う元素の真下にある元素は、毒性があることが多い」というパターンを最も典型的に示しているのが、グループ12の亜鉛・カドミウム・水銀です。
亜鉛は、宇宙にも比較的多く存在しているため、人体も積極的に利用しています。
一方、カドミウムや水銀は宇宙で誕生した量が圧倒的に少なく、人間が文明を持ち鉱物を掘り出すまでは、人体が触れる機会はほとんどありませんでした。
このため、亜鉛は健康のために積極的にとるべき元素になったのに対し、カドミウムと水銀は人体にとって毒となってしまったのです。
カドミウムと水銀は、周期表では亜鉛の真下に位置しています。
このため、外側の電子の軌道がきわめて似ています。つまり、この3つの元素は化学的な性質もよく似ているのです。
これは、健康を守る上で、深刻なことです。
なぜかというと、たとえ人体に害を及ぼす元素であっても、人体を素通りしてくれれば、毒にはなりません。人体に吸収されるからこそ、毒性を発揮するのです。
カドミウムと水銀は、化学的な性質が亜鉛と似ているため、亜鉛を吸収するルートに沿って、人体に吸収されてしまいます。
人体は亜鉛を必要としています。
だから、健康に良かれと思って亜鉛を吸収する仕組みを発達させたのです。
しかし、このために想定外だったカドミウムと水銀も吸収してしまうことになったわけです。
イオウとの結合が、健康を破壊する!
グループ12の亜鉛・カドミウム・水銀に共通した特徴の中で決定的に重要なのは、イオウと結合しやすいということです。
実は、亜鉛が私たちの健康を守ってくれるのも、カドミウムや水銀が私たちの健康を破壊するのも、究極的にはイオウと結合する性質によるものです。
少なくとも人体にとっては、グループ12の元素は、イオウとの結合に始まりイオウとの結合に終わるといってもいいくらいです。
イオウは人体には6番目に多い元素で、原子の数でいうと人体全体の0・1%がイオウです。
先ほど、メチル水銀はシステインと結合するために人体に害を及ぼすと述べましたが、これもシステインがイオウを含んでいるから起こることです。
アミノ酸の中でメチオニンやシステインにはイオウが含まれているので、含硫アミノ酸と呼ばれています。
イオウは漢字で書くと硫黄で、含硫とはイオウを含むという意味です。
実は、人体で働く多くの酵素がメチオニンやシステインを含んでいます。
亜鉛はイオウと結合する能力を使って、こうした酵素の働きを高める作用を発揮しているのです。
一方、カドミウムや水銀は、やはり酵素が持つメチオニンやシステインと結合してしまうことで、酵素の働きをおかしくします。
こうしてカドミウムや水銀が毒性を発揮する場合が多いというわけです。
イオウと正しく結合する亜鉛が健康の味方、イオウと間違って結合するカドミウムや水銀が健康の敵だといえます。・・・・・・・
「元素周期表で世界はすべて読み解ける」(光文社新書)第7章より
元素周期表で世界はすべて読み解ける
宇宙、地球、人体の成り立ち
吉田たかよし著
2012年10月17日発売
光文社新書/定価777円
【目次】
第1章 周期表には何が書かれているか?
第2章 周期表から宇宙を読み解く
第3章 化学反応を繰り返す人体
第4章 私たちはなぜ、動くことができるのか
第5章 レアアアースははみ出し組ではない!
第6章 美しき気ガスと気体の世界
第7章 周期表からリスクと健康を見きわめる
元素周期表で医学と宇宙を学ぼう!楽しもう!