放射性ストロンチウムで白血病になる理由
骨に入り込んだ放射性ストロンチウムも、放射線を周囲にばらまきます。
もちろん、これによって骨自体にも悪性腫瘍ができます。
それが骨肉腫です。
ただし、骨肉腫よりも、もっと発生頻度の高い悪性腫瘍があります。
放射性ストロンチウムで最も起こりやすのは、実は白血病なのです。
赤血球や白血球は、骨の真ん中にある骨髄でつくられています。
骨というと、白くて硬いイメージをお持ちだと思いますが、それは骨の表面にある骨皮質と呼ばれる部分です。
骨皮質に包まれた骨の真ん中の部分には、赤みを帯びた骨髄質があります。
フライドチキンを食べる機会があったら、ぜひ骨を砕いて観察してみてください。
骨を砕くと、白っぽくて硬いツルッとした骨皮質の内側に、赤黒く脆い部分があることが確認できます。
これが骨髄質です。
人間もニワトリも、ここで赤血球や白血球をつくっているのです。
赤黒く見えるのは、赤血球の元になる血液細胞(赤芽球)などの色です。
このように、血球は骨髄でつくられているのですから、骨に取り込まれたストロンチウムから出る放射線は、骨の細胞だけでなく、すぐ近くの骨髄の細胞にもダメージを与えるのは当然ですね。
しかも、骨髄のほうが健康への被害ははるかに深刻なので厄介です。
なぜかというと、骨髄では次から次へと細胞分裂を行って、血球をものすごいスピ―ドでつくり続けているからです。
放射線が当たると細胞が癌化するわけですが、特に癌化しやすいのは細胞分裂をするタイミングです。
生命にとって大切な遺伝子は、普段は細胞の中できれいに折りたたまれ大切に格納されています。
遺伝子の正体は、二重らせん構造をした、細い糸状のDNAです。
細い糸は切れやすいですが、糸巻きにきれいに巻かれている状態では、ちょっとやそっとでは切れません。
ですから、少々放射線が当たっても、遺伝子はそんなにダメージは受けません。
ところが、細胞分裂をするときだけ、細胞が一瞬スキを見せてしまいます。
1個の細胞が分裂して2個の細胞になるとき、遺伝子もコピーしてもうひとつ用意しなければなりません。
そのため細胞は、普段は大事に折りたたまれている遺伝子をほどいて、細長いひも状、いわばハダカの状態になります。
このときに放射線が当たると、遺伝子は簡単に壊れてしまうのです。また、遺伝子の壊れ方が悪いと、不運にも癌化してしまいます。
骨髄では、大量の赤血球や白血球を量産するため、猛烈な勢いで細胞分裂が行なわれています。
体外からの悪影響を受けにくいだろうということで、わざわざ体の奥にある骨のさらにその真ん中に、赤血球や白血球の工場をつくったと考えられます。
ところが、放射性ストロンチウムを取り込むと、そのすぐ近くから大量の放射線が当たってしまうのでたまりません。
その結果、赤血球や白血球の元になる造血細胞が癌化してしまい白血病を発病してしまうというわけです。
白血病は放射線に被曝して2年から3年で増え始め、・・・・・
「元素周期表で世界はすべて読み解ける」(光文社新書)第1章より
元素周期表で世界はすべて読み解ける
宇宙、地球、人体の成り立ち
吉田たかよし著
2012年10月17日発売/光文社新書/定価777円
【内容紹介】
私たちの体、住んでいる地球、そして宇宙。この世に存在するすべてのものは、元素同士の化学反応によってできています。
これらの自然科学の摂理を凝縮した万能の道具が、周期表です。元素たちが並んだ周期表のルールは、複雑そうに見えて非常にシンプル。
「縦と横のどっちから攻める?」
「なぜ人体は取り込む栄養素を間違う?」
「元素の化学進化って何」――?
難しそうだけどなぜか気になる、周期表の仕組みが一からわかる入門書。
量子化学の基礎、内部被爆のメカニズム、レアアース、超新星爆発などの様々なキーワードも、周期表というアプローチから解き明かしていきましょう。
【目次】
第1章 周期表には何が書かれているか?
第2章 周期表から宇宙を読み解く
第3章 化学反応を繰り返す人体
第4章 私たちはなぜ、動くことができるのか
第5章 レアアアースははみ出し組ではない!
第6章 美しき気ガスと気体の世界
第7章 周期表からリスクと健康を見きわめる