世界は「ゆらぎ」でできている
~宇宙、素粒子、人体の本質~
(光文社新書)
(前略)・・・2012年7月31日、スイスのジュネーブ近郊にあるCERN(ヨーロッパ合同原子核研究機構)で、ヒッグス粒子が事実上見つかったと発表され、このニュースは世界を駆けめぐりました。
素粒子の実験には大掛かりな実験装置が必要で、多額の経費がかかります。
このためヨーロッパの各国が資金を出し合い共同で設立したのがCERNです。
ここには素粒子や原子核の性質を調べるための大型装置が数多く備えられていますが、中でも最大なのがLHCと呼ばれるリング上の装置で、後述するように山手線一周に匹敵するほどの大きさです。
これだけの大掛かりな装置だったからこそ、これまで見つからなかったヒッグス粒子の痕跡が捉えられたわけです。
ヒッグス粒子は、標準模型の17個の素粒子のうち、未発見だった最後の1個でした。
だからこそ、大きく報道されたのです。
発表の翌日、私はラジオのニュース番組で解説を依頼されました。
この日は、テレビもラジオも報道番組はヒッグス粒子の話題で一色でした。アナウンサーの方は、これほど大騒ぎになっているので、きっと予想外の発見なのだろうと思われたようで、「ヒッグス粒子の発見は驚きでしたか」と質問してきました。
しかし、発表されたデータは、まったく事前の予想どおりのもので、驚きはまったくありません。
むしろ予想どおりの形でヒッグス粒子の痕跡が見つかったことこそがニュースの本質でした。
そこで私は、こんな説明をしました。
「世界中の物理学者は、標準模型というジグソーパズルの完成に取り組んできたのですが、17個のピースのうち、たったひとつ、ヒッグス粒子のピースだけがポッカリ空いていたんです。
それが今回、寸分たがわぬくらいピッタリとはまるピースが見つかり、ついに物質の根源を描くジグソーパズルが完成したため、価値ある発見だと言えるのです」
このように標準模型の理論は、ヒッグス粒子の発見によって、一定のゴールに至ったといえます。
それでも、矛盾がすべて解決したわけではありません。
標準模型の理論に従って計算すると、宇宙の誕生直後の高温下では、ヒッグス粒子は今回の観測結果の10京倍という途方もなく大きな質量を持つことになってしまいます。
これは、どう考えてもおかしいことです。
さらに、宇宙の物質の大半を占めるとされるダークマター(暗黒物質)の存在も、うまく説明できません。
こうした矛盾を一気に解決できる可能性があるのが、素粒子はミクロのヒモの揺らぎだとする「超ひも理論」なのです。・・・(後略)
世界は「ゆらぎ」でできている
~宇宙、素粒子、人体の本質~(光文社新書)
第1章より
・アインシュタインは、相対性理論でノーベル賞をとれなかった! ⇨クリック
・ヒッグス粒子は、ジグソーパズルの最後のピース! ⇨クリック
・銀河も恒星も、宇宙の10万分の1の揺らぎから生まれた! ⇨クリック
・私たちは、ブレーンワールド(膜の世界)に住んでいる! ⇨クリック
・24時間リズムで設計したら、人類は絶滅していた! ⇨クリック
・ビッグバンは天文学者の皮肉のダジャレから始まった! ⇨クリック
世界は「ゆらぎ」でできている
~宇宙、素粒子、人体の本質~
(光文社新書)